【書評】外国語を学ぶ者は一読すべし!『SNSで外国語をマスターする≪冒険家メソッド≫』
- 2018.10.30
- 考え方

オーストラリアに住んでいると日本からの旅行者やワーキングホリデーで来ている人たちに数多く出会います。
そんな場面で必ずといって良いほど出てくるのが「英語はどうやって習得したんですか?」という話題。多くのひとが効率の良い英語学習法を求めているんですね。
また、私も日本語を教えている教師として常に新しい学習法についてアンテナを立てて情報をキャッチするようにしています。
そんな探求を続けているさなか、私はこの本に巡り合いました。
「もう学校も先生もいらない」と強烈な出だしの煽り文句!ただしそこには 「!?」続いており不確定要素の余地を残していますね。その理由は本を読み進めていく上で明かされていきます(笑)
オーストラリアで日本語を教えていて、一斉授業には限界を感じていること、またこの本を読んでいて、大いに頷いた箇所も多数ありました。
また、ICTを活用した授業のニーズが叫ばれるなか、私の中で教師の役割とは何か、既存の教育システムを継続してゆく事が可能なのか再考している最中なので、読み終わった頃にはハイライトしたところでいっぱいになってしまいました。
果たしてこの冒険家メソッドというのは一体何なのか、そして教育はどう進化していくべきか。私が読み進めていく上で響いた内容をひきながらご紹介していきます。
なんの本なの?
アマゾンに記載されている内容紹介を読むと;
学校や教師が必要ない時代に突入!?
外国語を独学で学ぶ人の数は、学校で学ぶ人の数よりもはるかに多いと言われています。
いま、SNSやインターネットの発展がそれに拍車をかけています。
本書では、人気ブログ「むらログ」の村上吉文先生が、SNS などインターネットを活用した外国語独学法「冒険者メソッド」を伝授します。
独学で外国語をマスターしたい人はもちろん、ネットを授業に活用したい語学教師も必読の1 冊です。
と書いてあります。なるほど、SNS などインターネットを活用した外国語独学法「冒険者メソッド」がキモなわけですね。
英語の学習法について書かれた本は掃いて捨てるほどありますが、外国語を、しかも独学法で学ぶ書は初めて読みました。
だれが書いた本なの?
本の著者は村上吉文さん。 日本語教師界隈では有名な「むらログ: 日本語教師の仕事術 」というブログを書いてらっしゃいます。日本語教育の教材もシェアしている記事もあり、私もエクセルのテンプレなどお世話になりました。
巻末の著者紹介のところを見ると、現職は冒険家、日本語教育コンサルタントでカナダのアルバータ州教育省に勤務とあります。(2018年10月現在)
今回、この冒険メソッドの本を村上先生にご恵贈 頂きました。有難うございました。
冒険家メソッドとは?
この本のタイトルにも出てくる冒険の書、ならぬ冒険家メソッドという言葉。メソッドとは方法、手法といった意味。
では、ズバリ冒険家メソッドの意味合いとは;
自分で計画を立てながら主体的に外国語を勉強する方法で、その中心となるものがソーシャルメディアである。
冒険家メソッドを行う上でカギとなるのはFacebookやツイッターといったSNS。これらの出現で学習環境がガラリと変わったということ。
もう一つのカギは、私も実感しているのですが学習者のニーズが多種多様化していること。『学習者は「わがまま」だということです (5p)』という言葉に集約されていますね。
ありがたい事に、インターネットを駆使さえすれば多様なニーズに応えられるリソースにアクセスできるようになりました。
更なるカギとして、一緒に勉強する仲間・同級生の重要性が説かれています。「一番大切なのはコミュニティを見つけること」とありますが、私はツイッターでその事を実感しました。
ツイッターは誰をフォローするかで面白さが全然違います。私もツイッターを使い始めた頃はツイッターの何が面白いの?と思っていました。大切なのは教材ではなく「その言語の話者」とも本で説かれています。
その言語の話者とのコミュニケーションがモチベーションだとすれば、何のために勉強しているかというのが明確ですね。ば例えばフェイスブックであればリプライがある、つまりは「 フィードバックループ」が存在しています。これは言語学習上、強力な要素ですね。
今の時代だからできる勉強の効率化
第1章の理論編には「外部の脳を使え!」という見出しがあります。
これはスマホやパソコンといったツールを使い尽くせ!という意味で、いろいろなツールが紹介されています。
今までは紙の辞書を持ち歩きそれが電子辞書に進化し、今となってはブラウザでその対応単語をハイライトするだけで意味を見ることができる時代になりました。
ブラウザの補助ツール、自動翻訳やブラウザ組み込み型辞書の例が挙げられています。
そして記録物は全てクラウド上に記録することによって、デバイスに頼ることが無くなりました。タブレット、スマートホン(スマホ)、ノートパソコンのいずれを使っても同じファイルにアクセスする事ができます。
例えば自分のノートパソコンで書類を作成して、不慮の事故でノートパソコンが壊れたとしても、クラウド上にバックアップされていれば書類は回収することができますね。
オンラインで単語帳として使えるQuizlet.comやAnkiも紹介されています。機械学習的に忘れた頃に単語を復習させてくれるスグレモノで紙の単語帳を使うよりも遥かに効率的に学べます。
Kindleを活用した学習法(30p)はKindle 辞書、ハイライトや公開メモの使い方が書いてあります。これを期に私もキンドル端末を入手しました(笑)。
既存の大量生産型教育システムを問う
一つのクラスの中でも様々なレベルの生徒が存在しています。しかも生徒それぞれ得意とする学習スタイル、すなわち;
視覚 (Visual)
聴覚 (Auditory)
運動感覚的 (Kinesthetic)
は異なっています。それぞれのスタイルに合わせようとすると莫大な準備時間と 資料作成に忙殺されてしまうことでしょう。
今まだ続く一斉授業スタイルから変化していくのは一朝一夕ではいかないでしょう。しかし既存の日本の学校では変な同調圧力が存在しています。
これは私も英語の授業で経験あり。そう考えると他の科目でも、同調圧力が怖くて本領を発揮してなかった生徒がたくさんいたんだろうなぁ。出る芽も出せないのは日本の国家的損失。 https://t.co/HvTYOtlVKn
— はつ @メルボルンで日本語教師 🇦🇺 (@Hatsu_Oz) October 23, 2018
学習者は、自分に合った学習法とコンテンツとは何かを考えてみる必要があります。
これからは生徒が先生を探す時代
Podcast がこのように出始めた頃この分野の草分けのオーストラリアの先生が入っていて衝撃だったのが「教室に入る先生の他にオンライン上で他にも先生を選べる」と言っていたのですが、もはやそれが可能になってしまいました。
義務教育ではあまり考えられない先生と生徒との適合性。でもこの確率を高めてくれるのがオンラインで自分の自分に合った先生を探すことができます。
この場合、「最も効果的な先生は学校によってあてがわれた教師ではなく彼ら自身が発見した教師になる」(35p)とありますが、正にその通りだと私は思います。
冒険家メソッドにおける「教師の役割」
英語で教師のことはティーチャー(教える人)ですが、これからの教え方はファシリテーター(促進する人)という方が近いですね。
教室にパソコンやスマホが存在する以上、それらがあるという事は教室で一番知識を持っているのは教師ではなくなります。では教師としての新たな役割は何か?私は学習のお膳立てをすることだと思います。
本で提唱されている教師の役割は次の6点;
・教えないこと
・環境(コミュニティ)を作る
・動機づけ
・共感・傾聴
・学習方法とリソースを提案する
・質問
今のご時世、若い世代は小さい頃からデジタル機器に囲まれて育っています。では生徒たちがそれをうまく使いこなしているか、必要な情報をうまく検索できているか、 といえば甚だ疑問です。
車で例えて言うならこれからの時代、教師の役割は「教習所の教官」なのではないでしょうか。全く車を運転していない人よりは運転技術もあるし知識もある。しかし専門的な分野や最新の情報ともなれば専門家やネットの情報に太刀打ちできません。それらは F 1のトップドライバーのようなものでしょう。
教師が F 1ドライバーになる必要はなく、学習者のニーズに合った学習機会を提供できる、「多くのリソースを広く浅く知る(188p)」教習所の教官になれば良いのです。
勉強でワクワクドキドキできるか
ソーシャルメディアから学ぶ外国語を学ぶことは安全か? といえばリスクは存在しています。
ではソーシャルメディアを使わない従来の教育システムは安全なのかと逆算的に考えてみれば、今現在の日本の教育システムは大成功している、とは言い難い現状。
予定調和では無い学習スタイル、しかも双方的な言葉のやりとりをできる方がワクワクドキドキ、それが言語習得に繋がっていきます。
本書では活用できるSNS として、フェイスブック、ツイッター、ブログ 、YouTube などが紹介されています。
本文中、SNSの二番目に紹介されていた 「Google プラス」は既に閉鎖してしまっているのですが、これは正にSNS から学ぶことのリスクであると同時に時代の移り変わりの速さを象徴していますね。
はつ的まとめと考察
本の序盤に述べられているのが試行錯誤。「色々手を出してやってみる」ことが書かれています。私もまさに同感で、「冒険はそれ自体に価値があります」という言葉、正に冒険メソッドの真骨頂ではないでしょうか。
冒険家メソッドを試してみるにしても、はじめの一歩を踏み出すのを躊躇、ちょっと怖いなぁと思っている人はこの本にも載っているコミュニティにまずは参加してみるという手がありますよ。
この本がターゲットとしている読者層にちょっとアナログな外国語教師も入っていますが外国語教師に留まらず、自分の子供に外国語を習得してもらいたい親御さんにも読んでもらいたい内容です。ただ、既存の学習法とは大きく異なっているのでその点は年頭に置いて読みましょう。
私としては、子供が「自分で自分の学びをマネージメントし成長し続けることができる人材(183p)」に育つ事が、21世紀を生き抜くスキルであると信じています。
冒険家メソッドはこれから外国語学習をマスターしたい人のためにヒントがたくさん載っています。ぜひ活用してみて下さいね。
ちなみにこの本の価格の5%は「海外にルーツを持つ子どもと若者のための日本語教育・学習支援事業」を実施しているNPO法人青少年自律援助センターに寄贈されるそうです。
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